2015.07.
コブシ  / タムシバ / ハクモクレン  (モクレン科
辛夷 ( シンイ ) [ 局 ] 漢方薬

■ 多くの顕花植物は、雄しべや雌しべは、環状に配置されますが、モクレン科では、らせん状に並びます。 モクレン科の花は、雄しべと雌しべが多数あり、花床は柱状になり、基部側に雄しべ、先端側に雌しべが並びます。 この形状は、白亜紀の花の化石としても残っているもので、モクレン科が被子植物の古い形態を受け継いでいることを表します。
花は雌性期と雄性期があり、雌性先熟で柱頭が花柱から開出しているときが雌性期、柱頭が花柱につくと雄性期になり雄しべから花粉が出ます。 花被片の数は、種によって異なりますが、生薬・辛夷シンイ)の基原植物では、花被片は9枚、内側の大きな花被片が6枚、外側に3枚の花被片がつきます。 外側の花被片は、ガクにあたるもので、小さく目立たないという傾向があります。
■  コブシ 辛夷 ※1 は、10〜20mになる落葉高木で、日本と韓国南部に分布します。 早春を代表する花木のひとつで、他の木々に先立って、たくさんの白い花を咲かせます。花被片は大きな内側の花被片6枚、外側に小さく目立たない3枚があり、開花時の花は大きく平開します。 このとき、花の下にある小さい葉が、1枚だけ広がるのが特徴で、他の種との区別点になります。雄しべは黄色、雌しべは緑色で柱頭は白色、まとまって柱状になり、らせん状に並びます。 花後に展開する葉は、全縁で互生し、葉身は広い倒卵形から長楕円形、 先端側で最大幅になり先は尖ります。
果実は袋果で、秋に熟すと裂開し、中には橙色〜朱色の果実が入っています。珠柄 ※2 がしっかりとついていて、果実をゆっくり引くと、伸びて白い糸状になり果実を吊り下げます。

辛夷コブシ)の花蕾は、生薬名を辛夷シンイ)といい、含有する精油成分に鎮静・鎮痛効果があり、鼻炎、蓄膿症や頭痛などの漢方処方に用いられます。 生薬シンイには、次項のハクモクレンタムシバなども基原植物とされていますが、 元々は、コブシが、タムシバの代用生薬として開発されたものです。
和名は、果実が拳(こぶし)の形 ※3 をしているからとされ、属名 Magnolia は、人名由来。保存名の種小名 kobus は、和名由来です。 もうひとつの種小名 praecocissima は、最も早咲きの の意味です。 別名・田打ち桜 は、田んぼを掘り起こす時期に咲くことから。その昔、コブシの開花をみて、農作業などの目安にしたことが窺える別名です。

※1 漢名の辛夷 は、モクレンのことでしたが、日本では誤って使用し、定着したものです。
※2 珠柄は、胚珠(種子になります)を胎座に固定する役割をします。
※3 蕾の形が子供のにぎり拳に似るとする説もありますが、やや難しい解釈に思えます。
コブシ 辛夷  Magnolia kobus De Candolle (保存名) / ( Magnolia praecocissima Koidz.)

■ タムシバ 田虫葉 は、本州の日本海側を中心に自生する、普通4〜5mの樹高になる落葉樹です。 コブシよりも温暖な気候を好むとみられますが、葉に先立って開花し、農作業の指標にされたのは、コブシと同様です。花被片のうち、内側の大きな6枚はコブシと似ていますが、外側の小さな3枚は、白く細い花弁様になります。 また開花の時期には、花の直下の葉が展開していないことも、コブシと異なるので区別ができます。

葉身は広被針形でコブシよりも幅が狭く、葉には甘味があって、サトウシバやカムシバ「噛む柴」の別名を持っています。和名のタムシバは、カムシバが訛ったものとされます。 枝に芳香があることから、ニオイコブシという別名もあります。種小名salicifolia は、ヤナギ属 Salix のような葉の の意味。

■ ハクモクレン 白木蓮 は、原産地の中国を代表する大型のマグノリアで、樹高10〜15m程になります。 やはり葉が展開する前の早春に、花被片9枚の白い花を咲かせます。大きな花は上向きに開きますが、平開することはなく、開花時に花の下に葉をつけない点で、コブシと区別ができます。

和名は、モクレン(別名シモクレン・紫木蓮)に対して白い花なので、ハクモクレン 白木蓮 。保存名の種小名 denudata は、裸の、露出した の意味です。 heptapeta は、7花弁の 意味で、実際の植物を確認しないでつけたのではないかという疑問も持たれています。
タムシバ 田虫葉
Magnolia salicifolia Maximowicz
ハクモクレン M.denudata Desr.(保存名)
 / (M.heptapeta Dandy)

生薬シンイでは、次の2種も基原植物となっています。
ボウシュンカ 望春花  Magnolia biondii Pampanini
マグノリア・スプレンゲリ Magnolia sprengeri Pampanini



■ 日本では利用していませんが、中国ではモクレンも、生薬シンイのひとつとして利用しています。 中国原産とされ、根元から幹が何本も立ちあがり、樹高5m程度になる落葉樹です。
葉の展開する前に咲き始めますが、開花の時期が長く、葉が広がってからも咲きます。花被片は内側が6枚、外側は小さく緑色の線形で3枚つきます。 外面は赤紫色、内側は白くなり、幅がハクモクレンの半分程度であるため、舌状に細長く見えます。

保存名の種小名 liliflora は、ユリの花。 quinquepeta は、5枚の花弁の の意味で、ハクモクレンの heptapeta 同様に実際のモクレンとは異なります。 ハクモクレンに対して紫木蓮(シモクレン)と呼ぶこともあります。 漢名の辛夷は、本来は本種のことを指します。
モクレン Magnolia liliflora Desr.(保存名)
 / (M.quinquepeta Dandy)
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